日本電算機販売株式会社 様
リーガルテック社では、事故や事件などの証拠データの抽出や調査を行っていますが、その結果が訴訟や裁判で、どう扱われるかを知る機会はほとんどありませんでした。今回、日本電算機販売株式会社である交通事故が発生しました。当て逃げ事故でしたが、リーガルテック社のフォレンジックツールを使い、事故の相手を特定することができました。本稿では、その成功事例を紹介します。
医療機関向けシステムを手掛ける日本電算機販売株式会社
まず、日本電算機販売株式会社についてお聞かせください。
早川)当社は、医療事務コンピュータシステムの販売・保守を目的に1981年に設立した会社です。現在では、医療機関向けシステム、調剤薬局向けシステム、バックアップシステムの3つを主力としております。
医療機関のカルテやレセプトなど、高いレベルの個人情報を扱っておられます。最近、非常にデータの重要性が高まっています。その一方で、不正な方法によるデータ収集などもあり、注目を集めています。そのあたりについてお聞かせください。
早川)おっしゃるように、弊社が扱うのは医療情報データです。患者さんのプライバシーや治療に関する“データ”は記録された事実そのものです。そこに、意思決定や価値判断が加わると、データは価値のある“情報”に変わります。弊社は、そのあたりをしっかりと教育しています。今のところ情報漏えいなどの事故は起きていません。
また、私たちが現在の事務所に移ってきたときに、全ての入口に防犯カメラを設置しました。当時は、こんなのは飾りで本当に使うときはくるのかな、と思いました。しかし、とある電子機器の行方が分からなくなり、大きな問題となりました。実は、気の利いた社員がしまっておいてくれていたのですが、防犯カメラの映像で電子機器を持って入る姿を確認出来たので、社内の徹底捜査を行い発見するに至ることが出来ました。
このことからわかるのは、記録ってすごいということです。
事実が、そこに眠っているのですね。
早川)あとは声があります。弊社では、お客さまから電話で問合せをいただきます。その内容を、まちがいが起きないように記録するようになりました。まちがい以外にも理由があります。1つは、対応の品質を上げることです。そして、もう1つは、教育です。そこで、10年くらい前に、電話の録音装置を設置しました。これも、記録・データになります。
これも、とても助かりました。トラブルではありませんが、聞きそびれたことの確認ができことです。もし、お客さまからのクレームが入っても、事実関係を知らない社員が対応すると、十分な対応ができません。対応するには、お客さまのおっしゃっていることをすべて聞かないといけません。そして、弊社の対応も確認します。こうしたお客さまの対応をすることで、納得していただき満足していただけます。
例えお詫びに行く際も、事実関係を正しく知ることで、きちんとした対応がとれる訳です。他人が当事者と同じようなレベルで事実を知ることができるのが記録です。その意味でも記録はすごいと思います。
お客さまから何かご指摘があったとき、事実関係が分かっているかということですよね。
早川)お客さまが、以前のやり取りについて思い違いをしていることもあります。そこは追求せずに、事実関係だけを把握して問題解決をすることができます。データ・記録の重要性は、今の時代だからこそだと思います。
医療の画像データや、カルテの画像データを保管するサービスの提供や、そのためのハードウェアも含め提供されています。現状では、無機質なデータですが、それを医師向けに情報化するような新たなサービスやビジネスを提供するようなことは考えておられるでしょうか。
早川)電子カルテを取り扱っていて、医療画像は、データ保存という意味では弊社が行うのですが、中身についての価値・再利用といったサービスには至っていないと思います。
セキュリティに関してはあると思います。たとえば、紙のカルテの棚があります。それを防犯カメラで、誰が何時、どうアクセスしているのかを記録しているところといないところがあります。暗くて写りが悪い、誰であるかわからない、そんなときに利用することはあるかもしれません。事故が、起きてからの話になりますが、抑止力はあると思います。
電子カルテの普及率はどのくらいでしょう。
早川)3割に届いていないと思います。
笑い話ですが、医療機関では、毎月のレセプト(診療報酬)を提出します。最近では、電子化されているのですが、オンラインつまりネットワークで送る仕組みもあります。しかし、フロッピーディスクで提出している医療機関があります。まだ、フロッピーディスクがあるんです。その中身ですがテキストデータなので、メモ帳で開いて中身を見ることができてしまいます。患者の氏名、病名がすべてわかってしまいます。
フロッピーを紛失したほうがもっと危ないのです。オンラインでは暗号化され、セキュアなネットワーク上でやりとりされるほうがずっと安全なんです。その安全性がわからないので、物理的に見えているほうが安全、手で運ぶほうが安全と考えている方がまだまだ多くいらっしゃいます。
医療の情報化については、閉鎖的な部分もあるので、なかなか最新のテクノロジーには辿り着けていません。
社用車で交通事故が発生
では、本題のフォレンジックツールを使った事例に移りたいと思います。まず、事件の経緯をお願いします。
宮本)事故が発生したのは、平成30年7月20日、午後0時です。
場所は、首都高の中央環状線の内回りになります。渋滞しているなかで、弊社の車が停止したときに、後ろから車線変更しようとした車が当て逃げをしました。左車線に移動しようとした際に、弊社の車に接触したのです。
ドライブレコーダーに当て逃げの瞬間の映像が残っていました。しかし、相手の車のナンバーがはっきりしませんでした。4桁の数字のうち、中央の2桁はわかりましたが、そのほかの数字がわかりませんでした。高速道路交通警察隊の方も、「これでは、調べることはできません」との回答でした。最初の印象では、真剣に捜査に協力してくれなかったという感想を持ちました。
弊社の資産や社員が危険に晒されたという事実を黙っていることができませんでした。もう少し真剣に調査をしてほしいと、何度か交通警察隊の担当者に連絡しました。ドライブレコーダーの映像もCD-Rに焼いて、送ったりもしました。その結果、ざっと調べましたが、車種も該当車両なしという答えが返ってきました。事実上、そこで終わってしまいました。その後、車両保険で車を修理し、話がストップしてしまいました。
車両保険で修理した金額は、31万3000円でした。リアハッチ、リアのクォータ部分が損傷していました。
結局、逃げられたままで、話が進まない状態が続いていました。そんなときに、弊社の早川から、データフォレンジックの話を聞きました。では、やってみようかということになりました。そして、できあがった映像データを交通警察隊に送りました。
すると「そこまでするのですか」とおっしゃられましたが、交通警察隊でも画像鮮明化の調査を改めて進めますとの回答がありました。警察側と弊社が提出した映像データの2つで、事故の調査が進み始めました。
元の映像データは同じですよね。
宮本)はい、弊社のドライブレコーダーで撮影されたデータです。
その後、2、3週間ほど連絡がありませんでした。そこで、こちらから電話をしたところ、時間をかけてしっかりと調べたいので、もう少しまってくださいといわれました。
これまた、体よく逃げられたのかな、と少し不安になりました。(笑)
ようやく相手や事故の概要が明らかに
宮本)実際には、丁寧に調査を行ってくれておりました。ある日、電話がきて、事故の相手がわかりましたとの連絡がありました。
相手が特定出来たため、私どもでは、保険会社に確認しなければならない事案がありました。ドライブレコーダーの映像を見た限りでは、車が止まっていてぶつけられているのか、動きながら、つまり流れの中での事故であったのかを調べる必要がありました。
止まっている、いないでかなり違いますからね。
宮本)事故の相手を見つけたのはいいのですが、こちらにも過失があったのでは、損害を請求することが難しくなります。過失割合が0%:100%にならなかったとしたら、事故の相手から「こちらも修理代がかさんだから、お前のところに請求するぞ」といわれてしまう可能性が残ってしまいます。
そこで、弊社が加入している保険会社の担当の方に、ドライブレコーダーの映像データを確認してもらいました。結果、これであれば、完全に過失割合は0%:100%になるといわれました。
完全に止まっていたと認められたのですね。
宮本)はい。保険会社からも確約をいただいたうえで、弊社で、事故を解決するまですべてやる必要があるのか、保険会社には何をしてもらえるのかを確認する必要がありました。ほかにも、修理費以外にフォレンジックにかかった費用なども、払ってもらえるのか。このあたりも解決する必要がありました。自動車保険の等級に変動があれば、来年度の保険料も変わってくるため、こういったこともすべて保険会社に確認しました。
結論として、過失割合は0%:100%になりました。この事故を解決するためにかかったフォレンジックの費用も事故の相手が支払う義務があり、修理費も事故の相手が支払えば自動車保険の等級も下がることがないとがわかりました。
当て逃げでは、時間が経過していても、警察から出頭要請があるとのことです。警察から電話があると、「やりました。すみません」となるのが大半らしいです。実際、今回も事故の相手が警察に出頭して、「私がやりました」と認め、「つきましてはすべてお支払します」と警察に伝えました。
さらに明らかになる事実
宮本)では、なぜ当逃げをしたかに関してですが、事故の相手は業務のため逆輸入の大型ピックアップをレンタルして運転していました。
日頃は軽自動車を運転しており、初めての左ハンドル・大型ピックアップということで随分と緊張したそうです。「首都高を運転中に何かに接触した感じはあったが、車両ではなく中央分離帯か何かだと思った」とレンタカー店と警察にそれぞれ伝えたそうです。
警察の方より事故に関する証拠の提示を受け、すぐに事故を起したことを認めたそうです。
事故の相手には、刑事的な処罰あったのでしょうか。
早川)ないですね。弊社のほうも物損事故で処理をしました。
宮本)警察の方との電話ですが、「きつく処分をします」といっていました。もしかするとなんらかの処分は行われたのかもしれません。
早川)免許停止、減点、罰金といった行政処置があったのかもしれませんね。
高速道路のカメラは使えない?
宮本)それで思い出したのですが、ドライブレコーダーの映像データがあり、データフォレンジックがあったおかげで事故の相手をみつけることができました。最初、警察に相談したとき、首都高速にはあんなにたくさんのカメラがあるのに、録画をしていないといっていました。モニターで監視はしていますが、録画はしていないんですね。ですので、この事故の相手は特定できないといわれました。
早川)Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)は?
あれは、ナンバーを読み取りますが… 普通の高速道路には、3種類くらいのカメラが設置されています。ほかには、渋滞監視ですね。すべて管轄が違います。警察であったり、高速道路会社であったりします。
宮本)こちらは、当て逃げされて冗談ではないと思っていますので、こんなにカメラが付いているのだから、キズがたくさん付いている車はわかるでしょう、といいました。
とにかく、録画していないからわからないといわれました。渋滞監視で、ここはこれくらい車が走っていますとかのみで、7月20日午後0時のこの場所の映像はないといわれました。
あったとしても、出せないのかもしれませんね。もしくは、時間が経過すると、上書きされてしまう可能性もありますね。
早川)改めて、この事故は7月なんですね。もっと最近のことかと思っていました。警察にお願いしたのは、完全に事故処理が終わってからですね。
宮本)そうですね。
早川)この事故に対し、今さら、お金をかけて何があるんだという話もしていました。それでも、正義は貫かなければいけない、で二人の意見が一致しました。費用も手頃ですし、万が一、成果がなくても勉強代だと思って、AOSさんにお願いしました。
事故が発生してから、フォレンジックを依頼するまでにどのくらいかかったのでしょうか。
宮本)10月くらいでした。
3ヶ月も経過すると、警察でもデータが残っていない可能性がありますね。
宮本)警察が事故の相手を特定できたとしても、事故を認めるか認めないかといった問題もありました。弊社の持ち出しとしては、保険の免責分の5万円があります。さらにデータフォレンジックの分があり、10万円以上の持ち出しになります。認めてくれて、なおかつ、事故の相手がお金を払ってくれれば、今回は運よくそうなりました。しかし、持ち出しがあって、保険の等級が下がる事態も想定しなければなりません。まずはやれることをやる、やってみようということで、お願いしました。
不安材料はほかにも
実際に映像データが、上がってきていかがでした。
宮本)もっと確実にはっきりと数字が読めるものと思っていましたが、見る角度によって異なるため、警察で認めてくれるかどうかが心配でした。でも、警察の映像データも同じ映像データを見ているようでした。
早川)同じツールを使っているのでは?
その可能性はあります。
宮本)なんで結果が同じなのか… 電話で話をしていたら、最初、真ん中の数字2桁といったときも、ドライブレコーダーの真ん中2桁の数字はわかります。多分、この数字ですよね、といいました。私も、多分、その数字ですと答えました。「多分」では警察は動けませんといわれました。フォレンジック後は、警察はそのような言い方をしてきませんでした。これであれば、間違いないなという印象を持ちました。
フォレンジックの重要な点として、元データを加工できません。加工してしまうと、法的な証拠として担保性が失われてしまいます。ピンボケなどでは、正しい焦点位置を再計算し、見えるようにします。
こうして、どの数字か判別がつくレベルにします。普通のフォトレタッチとは異なります。また、4桁のうち、3桁の数字がわかれば、陸運局の情報から車種や色の特定は可能と聞いています。
宮本)相手が特定できてよかったですが、裁判という話をうかがったときに、見つかったら見つかったで、かなり面倒な話になるな、という懸念もありました。本当に、怖いと思いました。
早川)事故の相手の人間像はわかりません。さらに車種として、普通の人の車ではありません。そして、逃げていく人間は普通ではない… この映像データを突き付けても、知らばっくれるのではないかと思いました。保険会社をあいだに挟んで、我々は素人なのでプロに交渉してもらうようにしました。その一方で、弁護士にも相談しました。
フォレンジックを使ってみて
やってみての感想はいかがでしょう。
早川)それは、もうやってよかった!につきます。今後も同じようなことがあれば、お願いすることになるだろうし、よそでそういう話を聞いたら、フォレンジックがあるといっています。私は、去年の暮から、かなり宣伝していると思います。(笑)
本日は貴重な成功事例のお話、ありがとうございました。
本件は、日本電算機販売株式会社の本来の業務とはほぼ無関係でした。しかし、多くの会社が社用車を使い、営業や業務をしていると思います。こういった案件は、同じように発生する可能性があります。あおり運転などもあり、ドライブレコーダーの普及も進んでいます。事故などで、今回のようなフォレンジック作業が必要となることもありえます。
しかし、素人が訴訟や警察との交渉を行うのは、とても大変なことです。もし、顧問弁護士がいるのであれば、こういった対応について事前に相談しておくことも検討すべきでしょう。また、保険会社とも、日頃からこういったトラブルについて、相談しておくことも重要でしょう。この成功事例を、ぜひ、参考にしてください。
日本電算機販売株式会社 プロフィール
病院・クリニックと調剤薬局の下記情報システムの販売とそれに伴うシステムサポート、システム開発、システム保全を業務に。具体的には、キヤノンメディカルシステムズ製TOSMECシリーズ医療情報システム、日医標準レセプトソフトのサポートサービス、シグマソリューションズ製調剤薬局向システム、ファインデックス製医療情報システムなどがあります。